黄金時代

だいたい映画のはなし

「マグニフィセント・セブン」のはなし

マグニフィセント・セブン」(アントワーン・フークア/2016)をみた

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感想 ただただただかっこいい

7人ひとりひとり全員が格好良くて、ドンガラバーンとテンポも良く爽快。何度も言ってアレだが、とにかく右から左から上から下からかっこいいが素手で殴ってくるので終わった後ちょっと動けなくなるし数日すると禁断症状を催して大変(進行中)。なのに西部劇だからかなんなのか、淘汰が想像以上に早く封切りから一週間足らずで箱がド小さくなるというゲンジツ…わたしも西部劇はほとんど勉強不足(「七人の侍」も「荒野の七人」も恥ずかしながら未見です)だけどとっても楽しめました。少しでも気になっていて未見の方は急いで劇場まで…!

兎に角、前述の通り勉強不足ゆえ大した考察もできなければ感想はもう一言で言い切ってしまったので、じゃあ以下に続くものってなんなんだろうな…?

 

死地のはなし

何故縁もゆかりもない地の人々のため、勝機の絶望的に見込めない戦いに身を賭せたのか、これに関してはほとんど疑問を抱かなかった。全員が何らかの薄暗い過去や傷を抱えていて、死に場所を探して生きてきた流れ者たちだったという前提があり、
これは持論ですが、人生における大概のことってほんと、どうにかなるんすよ
けどその中でもタイミングってやつだけは大切だと思っていて、「今だ」「ここだ」「これだ」っていう直感さえ逃さなければ、人生において後を引くような後悔ってそうそう生まれないんじゃないかと今のところは思っていて(アメエよ!って怒られるだろうか)話が戻ると、きっとマグな7人、チザム以外の面々特にファラデーなんかはそう生きてきたんじゃないかと思ったんだよね。赦されることなど遠い昔に諦めていて、ただ自分が納得できたときにこそ唯一自分だけが自分を赦せる瞬間であり、あわよくばその中でこそ死にたいと思って流浪してきた人たちなのでは。だってなんかもう死んでいったみんながみんな、いい顔して逝くから…何ならバスケスの今後の人生の方が気掛かり。徒らにファラデーと友情?なんて育んでしまって、これからあの大戦や友を越える何かの中で人生の終を見出すことができるのだろうか。おいて逝くって本当酷いよな!

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ピーター・サースガードのはなし

マグな7人が脚光を浴びているのでどうしても話題に上らながちですが今回の悪役ボス、バーソロミュー・ボーグを演じたピーター・サースガード、最高でした。
口を噤むだけでその場に緊張感が走り言葉を紡げば空気が張り詰めるような、冷水を背中に垂らされるような演技だなあと悪役でなくても思うのだけど(あとなんかすごい見透かされてる感する)、今回はそんなオーラに加えて眼光の作り方(ずっとうるうるしてる、怒ってるのか震えてるのか笑ってるのかもう全然わかんない)、発声の仕方(裏返ったりもする)、手足頭の動かし方(最終決戦のときなんかヤクキメたかと思った)なんかが相まって最高に不気味で、この人には逆らえないとそこに存在するだけで力を思い知らされるような気持ちに画面越しなのになりました。最初の演説も、お屋敷で言伝を聞き激昂するところも非常に良かったけれど、やっぱり、最終決戦を異様な雰囲気でもって高みの見物キメるシーンが激アツい。
それではここで一句 いついつも マッチで着火 大優勝(「完全なるチェックメイト」もみてね!)

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おわりに

バスケスのなで肩の話とか初戦でファラデーとバスケスの登場シーンが同カットのフレームインだったこととかなんなら背中合わせで共闘しちゃうところとか怯えるグッディがフシャーッて猫の威嚇みたいだとか最終戦でグッディが馬から弾切れのビリーに銃を投げ渡してすぐ後では教会に登っていくグッディにビリーが狙撃銃投げ渡すところだとか馬の名前がジャックだとか、好きなところとしたい話は沢山あるんだけどそのへんは言葉になればツイッターでしようと思います

本編で一番好きなのはグッドナイト・ロビショーという人間です、ありがとうございます

もう一度くらい劇場でみたいなあ。

 

「沈黙」所感

「沈黙」(マーティン・スコセッシ/2016)初日をみた

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《感想》

日本人として、あの時代の日本人の所業を、それでも実はその裏に隠された日本人の被った苦い記憶とを、知らずに生きてきたことを恥だと思った。

自分が信仰をもたないことを良くも悪くも思ったことはないけれど、信仰の果てに自身の答えを見出したロドリゴ神父が、そして生涯の中で自分が最も美しく強くそして弱くて汚なくなれる足掛かりを信仰に見出し選び抜けたことへ、ひどく羨望の気持ちを抱いた。ロドリゴの日本での境遇を思えばそれは一般的に哀れみの対象なのかもしれないけれど、わたしにはロドリゴが美しすぎて、そしてずっと羨ましかった。少なからずわたしもロドリゴにイエスを重ねていて、キチジローに自分を投影し告解さえしていたのだ。

 

「インセプション」をみた

 なぜわたしはこれを観ぬまま今まで生きてこられたんだろう映画を観ました、その名も「インセプション」。(クリストファー・ノーラン/2010)

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 「夢」を共有することで他人の潜在意識内に潜り込み、情報や思考になる以前の「アイディア」を切り取って盗んだり、逆に植えつけたりするというストーリー。

 2時間半の尺にも関わらず、視聴後そのままもう一度再生ボタンへ手が伸びてしまうほどで(実際には1日おきに3度観た)、インセプションの何がこんなにもわたしの心を打ったのだろうか、考えてみた。

 

  • 勧誘と役職

 好きだ。チーム編成のために各職のエキスパートを勧誘しに行くシチュエーションがとにかく好きだ。わたしの勧誘バイブルは言わずもがな「オーシャンズ11」である。さらにインセプションでは役職にそれぞれエクストラクター、ポイントマン、設計士、偽造師、調合師、等名前がついていて心(ちゅうにごころとも読む)をくすぐる。

 今回は設計士のアリアドネが新入りであったので、彼女の視点を通して視聴者へインセプションの世界観と仕組み、コブの過去とトラウマを説明する仕組みとなっており、ミッション前までの下準備もとい視聴者の世界観認識がきちんと図られていた。観やすい。まさに今わたしの抱いた疑問をエレン・ペイジが発してくれ、レオとジョーが答えてくれるのである!ジョー演じるアーサーは頭の回転が速く返答も明晰で、さながらいい距離感のあるデキる上司だ。

 さらに、チームのキャラ立ちも全員がしっかりとしておりそれぞれが直接的に描写こそされないものの、パンフレットでレオが「僕らはそれぞれのキャラクターについて話し合い、個々の生い立ちや関係について意見を出し合った」と述べているとおり、生い立ちから歩んできた人生まで深く作り込まれている感が端々から伝わってくる。

 この方の考察と訳して下さった記事の内容がとても興味深かったので以下に引用させていただいた。イームスはまるで上流階級出身の放蕩息子、両親との不和持ち、アーサーの教養は努力のもとに成り立っているものではないかという話。(あとイムアサの話)

インセプションのイームスとアーサーは舞台裏で、もしかしたら、ね。 – A FAB CUPPA

 

  確かに、一見ピリッバシッときめているのはアーサーで、イームスは飄々として摑みどころのないキャラクターのように見えるが、意外と汚いワードがサラッと出るアーサーと頭の回転が速く皮肉やジョークをスマートに混ぜて話すイームスである。生い立ちは裕福なイームスと苦労人アーサー説、かなりグッとくる。アーサーがイームスに揶揄われてもコブに半ば八つ当たり的に怒鳴られても、決して激昂して言い返さないあたりも、生来の性格もあるだろうがもしかしたら今まで苦労を生き抜いてきた中で染み付いた身の振り方だったりするのかもしれない。

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  パンフレットにも載っているこの写真、眠っている体勢にそれぞれのキャラクターが現れていてとても好きな一枚である。「眠り」が生活習慣よりも職業として先行し、かつプライベートな眠りにさえ十字架を背負うコブはきっとリラックスした体勢でもう長いこと眠っていないのだろうし、対して富と権力を、自尊心と自信を持つサイトーは比較的どこでも自由に自分のスタイルで寝ることができて、そして何よりイームスである、きっちり手を組んで眠るイームスはやはりいいとこのお坊っちゃま出説…アーサーはしっかり公私を分別して眠れそう。お仕事時の彼の寝顔はいつも厳かである。

 とにかく今回のミッションの各階層において、アーサーとイームスそれぞれその機転と腕が確かであることは明らかである。それほどの経験と訓練とを積んだ彼らの過去や人間関係を考えると、ワクワクが無限に広がっていく。

 チームの結成があれば「解散」がある。本編の解散のシーンも最高であった。後腐れこそないものの、そこでは確かに無言の信頼と達成との共有がなされているのだ。

 

  • 非現実の臨場感

 さすがCGに頼らず限界までリアリティでの撮影にこだわる監督だけあって、非現実シーンの臨場感と映像美は圧巻である。パリのカフェ爆発シーン、パリの街並みを折り返すシーン、第二階層でのアーサーの変則重力・無重力シーン、第三階層での雪山戦闘シーン。話の軸関係なくこれらのシーンだけを切り取って観せられても惹きつけられる自信がある。それほど美しくてワクワクしてドキドキする映像が絶え間なく続いて、3度連続で観た後でさえ、飽きる疲れるダレるという感情が全く沸き起こらない。こんなにもワクワクする作品は本当に初めてかもしれない。

 重力無視空間の撮影解説ムービーを以下に。ジョーは無重力空間のスタントを全て自分でこなしたというから脱帽。ちなみにノーランも最初に自らグルグル回るセットに入ってチェックを行ったけれど、すぐに酔ってしまったとか。

  • 多層構造とクロスカッティング

 次から次に夢の中からさらに夢の中へ、途中アリアドネの研修シーンにもあるが鏡と鏡を向い合わせたら一回りずつ小さくなった世界が無限に続いていく、まさにあの感覚。 そうして異なる階層をクロスカッティングさせる編集。流れる時間の早さが異なるというのがまた面白い設定であった。第一階層を基準とすれば、第二階層に潜ってから実際に流れていたのは5分足らずだったということが分かる動画が以下である。加えてドリーマーの状態が下層に影響するという点も面白かった。

 好きすぎて速攻iTunesでポチる。とはいえ、初見時は物語の展開に全神経を持って行かれていたので思い出そうとしても全く覚えておらず、それでも改めて楽曲のみを再生してみると耳触りが確かに残っていたのである。ストーリーの感情面に常に焦点を当てていると語るハンス・ジマー。まさに絶妙な距離感で作品に寄り添い、調和していたのだろうと思う。これこそ、マリアージュ

 

  •  まとめ

 これらの要素が相まって、ストーリー展開が特に明るいわけでもなく終始シリアスであるにも関わらず、ずっとずっと純粋に「ワクワク」していたからこそ、こんなにも心に残って面白くて好きだと思ったのかもしれない。

 その他、細かく好きなシーンや俳優の演技、表情、台詞など山のようにあるし、ストーリーの解釈や設定の深読みも尽きないし、三度観てもやはり理解しきれない仕組みの部分もあるので、それらは是非誰かと討論したいところである。インセプションが好きな人は是非わたしとお茶をしてください!

 

 了