黄金時代

洋画をみます/書生

「インセプション」をみた

 なぜわたしはこれを観ぬまま今まで生きてこられたんだろう映画を観ました、その名も「インセプション」。(クリストファー・ノーラン/2010)

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 「夢」を共有することで他人の潜在意識内に潜り込み、情報や思考になる以前の「アイディア」を切り取って盗んだり、逆に植えつけたりするというストーリー。

 2時間半の尺にも関わらず、視聴後そのままもう一度再生ボタンへ手が伸びてしまうほどで(実際には1日おきに3度観た)、インセプションの何がこんなにもわたしの心を打ったのだろうか、考えてみた。

 

  • 勧誘と役職

 好きだ。チーム編成のために各職のエキスパートを勧誘しに行くシチュエーションがとにかく好きだ。わたしの勧誘バイブルは言わずもがな「オーシャンズ11」である。さらにインセプションでは役職にそれぞれエクストラクター、ポイントマン、設計士、偽造師、調合師、等名前がついていて心(ちゅうにごころとも読む)をくすぐる。

 今回は設計士のアリアドネが新入りであったので、彼女の視点を通して視聴者へインセプションの世界観と仕組み、コブの過去とトラウマを説明する仕組みとなっており、ミッション前までの下準備もとい視聴者の世界観認識がきちんと図られていた。観やすい。まさに今わたしの抱いた疑問をエレン・ペイジが発してくれ、レオとジョーが答えてくれるのである!ジョー演じるアーサーは頭の回転が速く返答も明晰で、さながらいい距離感のあるデキる上司だ。

 さらに、チームのキャラ立ちも全員がしっかりとしておりそれぞれが直接的に描写こそされないものの、パンフレットでレオが「僕らはそれぞれのキャラクターについて話し合い、個々の生い立ちや関係について意見を出し合った」と述べているとおり、生い立ちから歩んできた人生まで深く作り込まれている感が端々から伝わってくる。

 この方の考察と訳して下さった記事の内容がとても興味深かったので以下に引用させていただいた。イームスはまるで上流階級出身の放蕩息子、両親との不和持ち、アーサーの教養は努力のもとに成り立っているものではないかという話。(あとイムアサの話)

インセプションのイームスとアーサーは舞台裏で、もしかしたら、ね。 – A FAB CUPPA

 

  確かに、一見ピリッバシッときめているのはアーサーで、イームスは飄々として摑みどころのないキャラクターのように見えるが、意外と汚いワードがサラッと出るアーサーと頭の回転が速く皮肉やジョークをスマートに混ぜて話すイームスである。生い立ちは裕福なイームスと苦労人アーサー説、かなりグッとくる。アーサーがイームスに揶揄われてもコブに半ば八つ当たり的に怒鳴られても、決して激昂して言い返さないあたりも、生来の性格もあるだろうがもしかしたら今まで苦労を生き抜いてきた中で染み付いた身の振り方だったりするのかもしれない。

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  パンフレットにも載っているこの写真、眠っている体勢にそれぞれのキャラクターが現れていてとても好きな一枚である。「眠り」が生活習慣よりも職業として先行し、かつプライベートな眠りにさえ十字架を背負うコブはきっとリラックスした体勢でもう長いこと眠っていないのだろうし、対して富と権力を、自尊心と自信を持つサイトーは比較的どこでも自由に自分のスタイルで寝ることができて、そして何よりイームスである、きっちり手を組んで眠るイームスはやはりいいとこのお坊っちゃま出説…アーサーはしっかり公私を分別して眠れそう。お仕事時の彼の寝顔はいつも厳かである。

 とにかく今回のミッションの各階層において、アーサーとイームスそれぞれその機転と腕が確かであることは明らかである。それほどの経験と訓練とを積んだ彼らの過去や人間関係を考えると、ワクワクが無限に広がっていく。

 チームの結成があれば「解散」がある。本編の解散のシーンも最高であった。後腐れこそないものの、そこでは確かに無言の信頼と達成との共有がなされているのだ。

 

  • 非現実の臨場感

 さすがCGに頼らず限界までリアリティでの撮影にこだわる監督だけあって、非現実シーンの臨場感と映像美は圧巻である。パリのカフェ爆発シーン、パリの街並みを折り返すシーン、第二階層でのアーサーの変則重力・無重力シーン、第三階層での雪山戦闘シーン。話の軸関係なくこれらのシーンだけを切り取って観せられても惹きつけられる自信がある。それほど美しくてワクワクしてドキドキする映像が絶え間なく続いて、3度連続で観た後でさえ、飽きる疲れるダレるという感情が全く沸き起こらない。こんなにもワクワクする作品は本当に初めてかもしれない。

 重力無視空間の撮影解説ムービーを以下に。ジョーは無重力空間のスタントを全て自分でこなしたというから脱帽。ちなみにノーランも最初に自らグルグル回るセットに入ってチェックを行ったけれど、すぐに酔ってしまったとか。

  • 多層構造とクロスカッティング

 次から次に夢の中からさらに夢の中へ、途中アリアドネの研修シーンにもあるが鏡と鏡を向い合わせたら一回りずつ小さくなった世界が無限に続いていく、まさにあの感覚。 そうして異なる階層をクロスカッティングさせる編集。流れる時間の早さが異なるというのがまた面白い設定であった。第一階層を基準とすれば、第二階層に潜ってから実際に流れていたのは5分足らずだったということが分かる動画が以下である。加えてドリーマーの状態が下層に影響するという点も面白かった。

 好きすぎて速攻iTunesでポチる。とはいえ、初見時は物語の展開に全神経を持って行かれていたので思い出そうとしても全く覚えておらず、それでも改めて楽曲のみを再生してみると耳触りが確かに残っていたのである。ストーリーの感情面に常に焦点を当てていると語るハンス・ジマー。まさに絶妙な距離感で作品に寄り添い、調和していたのだろうと思う。これこそ、マリアージュ

 

  •  まとめ

 これらの要素が相まって、ストーリー展開が特に明るいわけでもなく終始シリアスであるにも関わらず、ずっとずっと純粋に「ワクワク」していたからこそ、こんなにも心に残って面白くて好きだと思ったのかもしれない。

 その他、細かく好きなシーンや俳優の演技、表情、台詞など山のようにあるし、ストーリーの解釈や設定の深読みも尽きないし、三度観てもやはり理解しきれない仕組みの部分もあるので、それらは是非誰かと討論したいところである。インセプションが好きな人は是非わたしとお茶をしてください!

 

 了