黄金時代

だいたい映画のはなし

「新しき世界」「ピンポン」「グラン・ブルー」-5月ダイジェスト版

心の余裕のなかった2月(9本)3月(6本)を通り越し、5月はそれなりに映画を観れているし(23本)、わたしは趣味の両立ができないというクリティカルな持病持ちでしかし丁度今は映画に塗れたい時期なんでしょうな、などと思う(美女と野獣を観て以来、ユアン・マクレガーに引っ張られっぱなしなのだが、今日はその話はしない)。

本日の構成は最近観た映画ダイジェスト版と日本公開待ち作品について。

 

最近みた映画

新しき世界(パク・フンジョン/2013)
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韓国ノワール映画、の割に直接的なグロ描写は控えめ。韓国では本当の兄弟でなくても仲の良い目上の人に対して男性から男性へは형(ヒョン/兄)と呼ぶのだけれど、ヒョンのニュアンスが日本語ではドンピシャで置き換えられなくて、血は繋がっていないけれど肉親のそれに限りなく近い呼称なんです。そこには目に見えないけれど確からしい信頼と情愛があるというか。限りなく近いんです、関係性が。

そこで、特に病院とヨスにおける、ジャソンの中でチョンの存在定義がスイッチを押したかのように切り替わる瞬間がどれも最高に良かった。この映画はそのシーンに尽きると言っても過言ではないと思う。ヨスでは一警官から、もう後戻りができなくなったことを示していて、ジャソンにとってチョンはただのチンピラからボス(仲間)へと変化した。最期の病院ではチョンのことをボスからヒョンと確からしく呼べるようになった瞬間で、「俺を許せるか?」の発言は本来ならジャソンがチョンへすべき質問なわけで、あれはもう、チョンの「俺はお前を許すよ」に等しい発言なのではないか。直接的な言葉こそないけれどあの瞬間、互いが互いを全て分かり合った上で赦し合っていたのである。ジャソンの葛藤と時を同じくして、チョンもまた直接ジャソンにぶつけられない疑いと怒りとを、例えばソンムの粛清をレイヤーにしたように間接的に伝えることしかできなかったのだ。

互いの全てを赦し合えたからこそ、ジャソンは最後の最後でずっと見失っていた「自分」をヒョンの中に見出し、チョンの世界でチョンとの過去を抱え一生を孤独に生きることを始まりで決めたのである。もう最後のほうなんてゴッドファーザーフランシス・フォード・コッポラ/1972)のマイケルを見てるかと思ったけれど(最初はイースタン・プロミスデヴィッド・クローネンバーグ/2007)寄りかと思っていたけれど、見れば見るほど近しいのはマイケルだった)、マイケルは自分の「家族」を守りたくて兄と父の死を引き金に力と孤独が双曲線を成したけれど、両者はその信念が有るものに対してなのか無いものに対してなのかで全く異なっていると感じた。(有ると信じていたものが指の隙間から零れ落ち、虚構だったのかとさえ思えるマイケルもつらすぎるけれど、最初から明白に失ったものに対して覚悟を決めざるを得なかったジャソンもまた、つらいよなあと思ったり。)

 

ピンポン(曽利文彦/2002)
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決して邦画を毛嫌いしている訳ではないつもりだが、なんだかんだ言って今年一本目の邦画だったしこんなに見返している邦画も久しぶり。先日バッド・チューニング(リチャード・リンクレイター/1993)をみて己の中の青春が火を吹いた。そしてピンポンでぶり返した。丁度窪塚洋介×宮藤官九郎特集で先週目黒シネマがピンポンとGO(行定勲/2001)をかけてくれていたので、スクリーンでも観ることができた(久しぶりに観るフィルム上映、画面の雑音に思わずくうぅと喉が鳴る)。

窪塚もいいけど(睫毛長すぎ)スマイルの井浦新、良すぎか。スマイルはボソボソ喋るしぺこは何喋ってるか分からないので初見では初めて邦画に日本語字幕を付けて観るなど。その後原作も読みましたが、わたしはあの物語をあの2時間に過不足なくうまく纏めきれていたと感じたし、台詞は原型があるとしても入れ方のタイミングなんかがとっても絶妙だったと思う。好きな台詞とシーン → 「あっかき氷だ!」「そこんとこよろしくっ」

ピンポンの何がいいかって、スマイル解釈のヒーローがぺこで、同時にまたぺこ解釈のヒーローはスマイルであるところである(ぺこはスマイルのことを相棒と呼ぶけれど、風間との準決勝でヤベエとなったときにヒーロー見参と唱えて応答したのは紛れもなくスマイルであったわけなので)。他人の自分の持たざるものに憧れたり嫉妬したりする気持ちは痛いほど分かるけれど、その部分を素直に認めて尊重し合える、最後にはそこに自分が全力で寄りかかることさえできる信頼感。そんなパートナーってなかなかいなくないか。自分のことを正直に自省して認められる素直さもまた、若さの柔軟性でもあるんだろうなあなんて。

アツがナツいぜーーーー!!!!

 

グラン・ブルーリュック・ベッソン/1988)
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やっとみた案件。圧巻のシチリアである。

ラストシーンに尽きるのかななんて思ったりもするのだけれど、わたしはあれを最高のエンディングだと感じた。陸で息の出来ない男、彼こそが人魚でありあのイルカは父でありエンゾであったのだと。海へ泡となって溶けていくジャック、最高のエンディング。好きだ。

母を知らず、最愛の父とも長くをともに過ごせないまま、イルカとエンゾだけが唯一何もかもをゆるしあえる存在であるという環境で育った彼にとって、それはもう陸に残って新たな家庭を築くという未来は酷とさえ言えるのではないだろうか。

海辺でアップライトピアノを弾くエンゾ、なんてお洒落なんだ。ただのガキ大将じゃあない。芸術的素養はいつでも美しく、だからこそヨーロッパに憧れるのだ。

 

日本公開待ち作品

スイス・アーミー・マン(ダニエルズ/2016)
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 無人島に取り残された主人公が助けを待ちくたびれ、いざ自殺しようと心を決めたまさにその時、波打ち際に打ち上げられた一体の死体(ダニエル・ラドクリフ)。死体がガスを発していることに気づき、なんとジェットスキーにもなっちゃうことが分かっちゃった。

ええ〜〜!?死体役って何それ、しかも動くって!?物語の落とし所としてどこに帰結するのか全くわからないけどめっちゃみたい。(下書きしてる間に2017/9月日本公開予定と決定)公式ホームページ内で、ワードの入力やカーソル操作で死体のマニーと遊べたりもしちゃう。↓

 

 

I Am Heath Ledger(エイドリアン・ビテンヒス/デリク・マレー/2017)
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ヒース・レジャーの家族や友人のインタビューや遺品による、ヒースの伝記ドキュメンタリー映画

わたしはヒースがいなくなってから洋画にも彼にものめり込んだクチなのでなにも言えた立場ではないのですが、もっと彼を見たかったし知りたかった。 最近ではDr.パルナサスの鏡テリー・ギリアム/2009)がとても好きで、ジョニー・デップジュード・ロウコリン・ファレル全員の「ヒースのトニー」がとっても、もうヒースのそれで、それだけで胸がいっぱいになる作品であった。

早く公開してほしいです。

 

Loving Vincent(ドロータ・コビエラ/ヒュー・ウェルチマン/2016)

トレイラーを見れば一目瞭然であるが、ゴッホの作品を元にゴッホの生涯を油絵のみを使ったアニメーションで語るという作品。ものすごい労力と手間である。この素晴らしい映画が早く見たくてしょうがない。一応公式ホームページでは去年からJapanの欄もずっとあってカミングスーンになっているし、URLにパルコが貼ってあるのでパルコ配給になるのかしら(本来は2016年9月公開の予定だったみたい)。絵の再現にモデルの写真を使って油絵を作成していたみたいなのだけど、そのキャストにシアーシャ・ローナン、エイダン・ターナーなんかがいたりもする。

 

 

結びに

次回はユアン・マクレガー特集かなあ。それでなくてもずっとトレインスポッティングの話をしたいと思っているので。今日も今日とてお付き合いありがとうございました。